真光やめたら幸せになりました

真光やめるほどじゃないけど、ちょっと疲れたな。そんなときは一息つきましょう。無理にやめなくてもいいんですよ。

井上陽水の気持ちなら分かる「氷の世界」

最近は古いフォークソングにハマっています。

私はあまり他人の気持ちが分かりません。
私にはよく分かるけど、うしおにはよく分からないのがフォークソングの歌詞。

氷の世界


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井上陽水はさすがに何曲か知ってますが、わざわざ自分から聞くほど好きなわけではない。
そんなファンでも何でもない私が、歌詞の意味を読み解きます。

1番は食欲

1番のテーマは食欲。
生きるか死ぬかの問題です。

「窓の外ではリンゴ売り」

強烈な歌い出しで、「なぜリンゴ売りなんだ」と疑問に思うかも知れませんが、今でもラーメン屋も豆腐屋も移動販売しています。
リンゴ売りの声が聞こえることから何が描写されているのでしょうか?

季節は初秋。
リンゴ売りの声が聞こえるということは、窓が開いていて、時間は昼間でまだ冷え込んでいない時期です。

主人公は昼間から家にいるのは仕事がないからです。
仕事がなければ家の中で過ごすのですから、町の風景や温度ではなく、リンゴ売りの声で季節の変わり目を知った。
つまりこの時点で割と孤独なのです。

「声をからして」いるのは、リンゴ売りが必死に売ろうとしてるからではありません。
主人公はリンゴが好きで本当は食べたくてたまらないから「声をからして」いるように聞こえたのです。

この時点では、ちょっとしたおやつも買えない程度の貧乏具合です。
買いたいものが買えない貧しさを、「リンゴ売りのまね」だと自分をごまかそうとしているけど、その欺瞞は自分自身がよく分かっています。
子供ならリンゴ売りのまねをするかも知れませんが、特に子供の声とは限定していません。
やはり実際にリンゴ売りの声が聞こえているんです。

季節は冬になり、より状況は深刻になりました

安アパートは断熱性が低く、さりとて暖房器具を買うお金もありません。
寒すぎて、テレビも壊れて「画期的な色になり」とうとうまともに映らなくなってついには電源も入らなくなってしまいました
(昔のテレビは画面表示が乱れることがよくあり、受信アンテナを動かして調整したり、叩いて直したりしていました)。

画面表示が乱れたことを「グッと魅力的な娘」に変えたという、なかなか表現力の高い暴言だと感心しました。

当時の情報源は、テレビと新聞ぐらいのものです。
今で言うならスマホが壊れたぐらいのショックでしょう。

自分はいつまで経っても芽が出ず、テレビに出演することはできません。
それなのに「とても醜いあの娘」はテレビに出演しています。井上陽水って、女というだけでちやほやされるタイプの女性が嫌いなんですよ*1
そのテレビすら壊れてしまい、社会との接点も失い、己の惨めさから目をそらすこともできなくなりました。

「記録的な」寒さや、「毎日、吹雪、吹雪、氷の世界」とは、
単に寒さというだけではなく、飢えや嫉妬、社会からの孤立という経済状況や心の描写です。

2番は人間関係

2番で主役は「誰か指切りしようよ」人や社会とのつながりを求めます。
「軽い嘘でもいいから」何か約束をして張り詰めていないと、今日一日を生き延びることもできないくらいに追い詰められています。

誰でもいいと言いつつも、本当に誰でもいいわけではありません。
小指を絡めるのは恋人と相場が決まっています。

軽い嘘くらいではもう自分を押しとどめることが出来ないので、結婚という重い約束を考え始めます。

昔は結婚して当たり前、男は妻子を養うのが常識でした。
「売れないミュージシャンなんて、いつまでも夢見てないでさ、ちゃんと結婚して責任取りなよ」って周りの人も言うでしょう。

赤い糸に結ばれて、普通に会社員でもやって結婚して家庭を持ち、身「動きがとれなくなれば」周りのみんなも笑顔になって祝福してくれるでしょう。
他人の望みを叶えて、それで周りが幸せになれるのなら「そんなに悪い気はしないはず」と、また自分を納得させようとしています。
他人の要望通りに生きることは、自分の本当の望みではないのです。

何をしても努力は実らず、時間だけが無為に過ぎゆきます。
そろそろ夢なんか諦めて、妻子を養って男としての責務を果たさねばなりません。
氷の世界では進むことも戻ることもできず、時間と涙だけが流れていきます。

3番は夢

ストレスがたまりすぎて「誰かを傷つけたいな」と思い始めます。
そして実行に移せない自分を臆病だと認めました。

その一方で願いが叶わずともやさぐれずに努力する人――つまり自分自身のこと――を、やさしさを内に秘めて「いつかノーベル賞でももらうつもりでガンバッてる」と小馬鹿にしたような言い回し。
でも曲の中では「ガンバッてる」のとこを力強く歌っているんですよ。
言葉の上では皮肉なんだけど、本当はそういう志の高い人の努力を認めている。

主人公は志が高い人であり、無謀な夢追い人でもあります。

食い詰めてもいい、結婚して責任を取れなくてもいい。
それでも叶えたい夢がある。
それはノーベル賞と同じくらい価値のある「歌手」という夢。
そのことを自覚して、怖くなって震えていた。

断筆寸前のアーティストの歌

なかなか売れずに苦労した時代に作った曲でしょう。

貧乏のつらさを、寒さや壊れたテレビで表現し、自分は売れないのに「とても醜いあの娘」はテレビに出てるという現実にプライドはズタズタです。

追い詰められて今にも夢を諦めて筆を折ってしまいそうです。

意外にストーリーがあり、一番は生きるか死ぬかの食欲がテーマ。食欲と夢のどちらを選ぶのか?
2番は恋愛や社会からの承認。ここでは他者との関係(傷つけたり結婚したり)、他人からの欲求に応じて自分の夢を諦めてしまうのかという問い。
3番は自己実現のための夢について、より高度な欲求へとシフトしていきます。

欺瞞と反語表現ばかりの歌詞
「リンゴ売りのまね」はまねではないし、指切りは誰でもいいわけじゃない。
「悪い気はしない」はやりたくないという意味だし、
ふるえているのは恐いからです。

欺瞞を少しずつはいでいってやっと自分の夢が語られる。
食うことも、社会的な責任を負うことも諦めて、本当に自分自身の願望と向き合った結果、怖くなって震えたのです。

歌手こそが一番の夢で、他のことを失ってでもやり遂げたいのだと。
ここまで追い詰められないと、自分の本心にたどり着けなかったのです。

昭和の歌手は、長年聞かれ続けているだけあって、歌詞のレベルが非常に高いと思います。
美しい言葉には力があります。

君も井上陽水を聞いて真光をやめよう。

押韻

さて、日本の歌は韻を踏まないのだと思っていました。
改めて聞くと、井上陽水は韻を踏む歌詞が多いんですよね。

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ライム事典のない時代に、よくこれだけ語感に優れた歌詞が作れたものです。

韻を踏み語感がよくて文学的表現が優れているのは「Make-up Shadow」

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最近は日本語でもなかなかラップ文化が浸透して韻を踏む歌詞も増えてきました。
洋楽の韻もいいけど、井上陽水押韻や語感のセンスは大変素晴らしいので若い方にも一度聞いてみてほしいものです。
unlearn-mahikari.hateblo.jp
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参考・出典

*1:「愛されてばかりいると」参照