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【ネタバレ】父と子で読み解くシン・仮面ライダー「緑川ルリ子編」

「父と子」をキーワードに「シン・仮面ライダー」のストーリーとキャラクターを読み解いていきましょう。

注意
  • この記事はシン・仮面ライダーのラストを含むネタバレがあります。
  • また、エヴァシリーズのネタバレもあります。
  • 筆者に仮面ライダーに対する知識と思い入れはありません。

ネタバレOKの方は続きをどうぞ!

父になる本郷猛

「シン・仮面ライダー」は一言で言うと、父親に複雑な感情を持つ本郷猛が、最後には自身が父になるお話でした。
その課程でルリ子の父となり、一文字隼人に背中を見せ、父親と同じように人のために死んで、何かを遺した物語です。

庵野秀明と父親

庵野秀明という男は、父を愛し、その愛を得られずに苦しんだ男でした。

エヴァにおける父親

シン・エヴァでは、初めてゲンドウが自分の内面を語り始めました。
ゲンドウは仕事は真面目にやるが不器用で言葉少なく、何を考えているのか分からない男でした。
ユイだけは「案外かわいい人なのよ」と理解していました。

シン・エヴァでやっとシンジはゲンドウと真正面からぶつかり合い、語り合いました。
そこに描かれるのはかつて一方的にシンジを拒絶した恐ろしい男ではなく、亡くした妻を愛し続けた、一人の寂しい男でした。

シンジも成長して、父親を一人の人間として受け入れることが出来たのです。
庵野さんも、父親のことが乗り越えられたんだな」とそのときは思いました。

しかしシン・仮面ライダーを観るとまた印象が変わりました。
お父さんのことを受け入れられたけど、やっぱり少し冷静になってまだ受け入れられない部分がある。
そういう揺り戻しと葛藤を感じました。

父と子

この作品で描かれる父子関係を整理していきましょう。

  • 本郷猛とその父
  • 緑川ルリ子と緑川弘博士。

この二組の親子関係がメインです。

疑似親子関係

  • 緑川弘と本郷猛
  • 本郷猛とルリ子
  • 本郷猛と一文字隼人

この三組です。

緑川弘とルリ子

イチローは弘とその妻の子です。ルリ子は人工子宮で生まれたので、弘の遺伝情報しかありません。
イチローとは腹違いの妹といったところでしょうか。

原作では弘の一人娘だったルリ子が、なぜイチローと同じ母から産まれたのではなく、人工子宮産まれになったのか。
「創作上での意味がなければカットするものだから」というのが一つの理由です。

庵野さんは母親に関心が薄いようで、やさしくてきれいな、存在感の薄いお母さんぐらいしか出てきません。
碇ユイも、シンジを守ったり取り込んだりする「母親という概念」として描かれます。

シン・仮面ライダーでも、イチローの母親は家族としてニコニコ過ごす描写があるだけで、幸せな家族だったという程度の意味しかありません。

ストーリー上、イチローに母親は必要です。
ルリ子は母親を持たないので、兄と同じ感情を共有しません。

母親との親子関係を排除することで、ルリ子は「父だけの娘」となりました。

what am i if i can't be yours


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ルリ子は父に作られた生体電子計算機です。
目的があって製作されたものであって、家族のような情の産物ではありません。

これはシンジがゲンドウから言われた「エヴァに乗れ、でなければ帰れ」と同じで、
「価値や条件によって必要とされるが、自分自身の存在そのものを受け入れてはもらえない」
これがルリ子の価値観です。その価値観で本郷に接します。

まずリル子は本郷のプロフィール(データ)を読み上げました。
序盤では「あなた(本郷)のスペックを信用する」と割と失礼な言い方をします。

「私ががまんできる程度の見た目にして」、と本郷の首に赤いスカーフを巻いてやりました。
ここでも見た目で評価しています。
ルリ子は、スカーフはライダーの必需品、正義のヒーローと言えば赤なんでしょ、よく知らないけど、と特に思い入れもなく語りました。
弘はそれを聞いて吹き出しました。
この場面から、弘がルリ子をただの道具として扱ってはいないことが分かります。

また父親と同じスカーフを与えた時点で、父親と重ねて観ていたのかも知れません。

スペックから信頼へ

中盤で、本郷はルリ子に「僕のことは信用できなくても、僕のプランを信じてほしい」と言いますが、ルリ子は「あなたを信じる」と答えます。
条件や見た目、スペックという「役に立つか、立たないか」という評価基準から、人と人の関係に変わりました。

消えた勘違い

テレビ版仮面ライダーの第一話では、ルリ子は「本郷猛が緑川弘を殺した」と勘違いしました。
シン・仮面ライダーではその勘違い自体が存在しません。

本郷は緑川博士を救えなかったことを謝罪しますが、ルリ子は「気にしないで、私も気にしないようにする」とクールな反応です。
「気にしないようにする」ということは、気にしているということですが、テレビ版のように激しい復讐感情はなくドライです。

なぜならルリ子は父親のことが嫌いだから。

本郷は、緑川弘が死に際に「娘を頼む」と言い残したことを「娘への愛情だ」と伝えましたが、ルリ子は「おめでたい」と聞き入れませんでした。
改造人間にされたことに怒らない本郷に対して、ルリ子はいらいらしている様子でした。

緑川弘につくられて利用されているという点では、本郷とルリ子は立場が同じです。
むしろイチローよりは本郷の方が兄妹に近いのかも知れません。

同情しないルリ子

強すぎてコントロールできない力や人の命を奪うことを「思ったよりつらい」と吐露する本郷。
ルリ子は守って闘うというのは辛さを引き受けることだと言い、辛さを分かち合ったり慰めたりはしません。弱い本郷への拒絶です。
私を守って、その辛さを一人で引き受けて欲しい。
それは父親がしてくれなかったことなのでしょう。

今どきのヒロインにしては、ルリ子はサポート程度の仕事はするが、戦闘能力はなく、「守られるだけの女」で終わりました。
もちろん原作がそうだからというのもありますが、シン・仮面ライダーのルリ子は「父親の愛を求める娘」だからです。

強いパパに庇護してもらえないと、娘は愛を感じられません。

恋人にならない二人

本郷猛とルリ子はオリジナルと違って恋仲になりませんでした。
イチローから「妹とはもう寝たのか?」と聞かれても「僕たちの関係は恋愛じゃない、信頼関係だ」と答えました。

ルリ子にとって本郷猛は、新しいお父さんだからです。

本郷が臭い本当の理由

風呂にも入れないような場所で本郷とルリ子はしばらく過ごしました。
ルリ子は、着た切り雀の本郷に「臭い」といって離れています。
単純に風呂に入っていないという意味ではありません。思春期の娘は、父親の体臭を嫌がるものです。
ルリ子は本郷を父親だと認識したから臭く感じるんです。思春期の少女の本能を描いています。

おそらくリル子も本郷に対する感情がなんなのかあまり分かっていなかったのではないでしょうか。
異性として好きなのか、それとも家族としてなのか。

ルリ子は「着替えるときも寝るときも隣にいて、でも絶対に変なことをしないで」と面倒くさいことを言い出します。

かよわい娘として守って欲しいけれど、でも異性扱いはされたくない。
つまり「わたしを娘として扱ってほしい」「わたしのお父さんになって」という要求なんですよね。

本郷は庇護者としての役割をすでに受け入れているので、「大丈夫だ、安心しろ」と答え、ルリ子は安心しました。

ここの数日間はこの映画でもっとも重要なシーンです。

ルリ子は嫌いだが未練のある父を失い、スペックや条件面でしか信用できなかった本郷を信頼し始めました。

そのときに彼女が男性に求めるのは恋人ではなく、父親でした。
本当の父は愛してくれなかったけれど、別の人でそれを満たそうとしました。
父親のエゴに利用されていた娘は、自分も父と同じように、誰かの代わりを求めたのです。

エヴァのアスカはファザコン

この心の揺れ具合はのエヴァのアスカを彷彿とさせます。

アスカは必死に大人びて「あたしはもう大人よ」と加持さんの気を引こうとしました。
でもアスカは、もし加持リョウジが自分に女性として興味を示したら、きっと失望していたと思うんですよね。

女性として誘惑しながらも、それには乗らないでほしい。
父親として愛してくれるの?という挑発。いわゆる試し行動というやつです。

こういう面倒くさいファザコン女性の気持ちを描写しています。

父に愛された娘

本郷猛とルリ子は男女としてではなく、家族として隣に布団をしいて寝ました。

父親を得て「安心した」ルリ子は命を賭ける覚悟が出来ました。

本郷が観たマスク内の映像の中で、ルリ子は「父親のバイクの後ろに乗りたかったけども、それはもういいの」と言いました。
本郷が父のようにルリ子を愛したからです。その背中にしがみついたことで、彼女は満足できました。

父性愛に満たされた娘は一文字の洗脳を解き、兄イチローを苦しみから解放しました。

この映画では幸せについてよく語るのですが、幸せになったものから死んでいくんですよね。そういうところも人類保管計画に似ています。

主役は本郷猛なのですが、心情描写的にはルリ子が主体と言えます。
庵野監督は、自分の気持ちを女性キャラに語らせる人だからです。

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