真光やめたら幸せになりました

真光やめるほどじゃないけど、ちょっと疲れたな。そんなときは一息つきましょう。無理にやめなくてもいいんですよ。

二世信者が攻殻機動隊からトホカミエミタメにたどり着くまで[後編]

前回の続きです。
unlearn-mahikari.hateblo.jp

Ghost in the Shell/攻殻機動隊押井守監督のアニメ映画)

https://www.netflix.com/jp/title/540533www.netflix.com
西暦2029年。精鋭サイボーグによる超法規特殊部隊、公安9課・攻殻機動隊に、国際手配中の凄腕ハッカー"人形使い"が日本に現れたという情報が届く。

哲学的でやや小難しいものの、攻殻機動隊が気に入ったら最終的に見ておいて欲しい作品。
実写版見てからだと、「あ、あのシーンだ」と楽しめます。
こういう汚い街並とか好きなんですよね。

攻殻機動隊神道

神道との関連性なのですが、原作では神道や宗教の話しが少しあります。
アニメ・映画版は名前程度です。

草薙素子

名前の由来は三種の神器のうちの一つ、草薙剣くさなぎのつるぎ
この剣は天照大御神あまてらすおおみかみの弟である

須佐之男すさのおのみこと天照大御神に献上されたものです。天石屋あめのいわやとの騒動の後、須佐之男命は天上の世界から追放され、出雲国いずものくに天降あまくだられます。そこで、八岐大蛇やまたのおろちを退治し*1

大蛇の尾を割いたときに現れた剣で、天叢雲剣あめのむらくものつるぎとも呼ばれます。

タチコマ

AIを持つ思考戦車。クモのような足を持つ多脚型。原作だと名前はフチコマ
名前の由来はスサノオが皮をはいで投げ入れた馬。うーん乱暴者ですね。

天照大御神が神聖な服屋はたや服織女はたおりめに神にたてまつ神御衣かんみそを織らせていたとき、須佐之男命は服屋の棟を壊し、あめ斑馬ふちこま(入り混じった毛色の馬)の皮を逆さに剥いで投げ込んだのです*2

また、日本書紀天岩戸あめのいわと第七段本文においても「秋には天斑駒あめのぶちこま(馬)を田の中に放って田を荒らしたり*3」とあります。

トグサ

天璽十種瑞宝あまつしるしとくさのみずのたから」あたりでしょうか?

十種の神宝とも呼ばれ、瀛津鏡おきつかがみ辺津へつ鏡・八握剣やつかのつるぎ生玉いくたま足玉たるたま死反玉まかるがえしのたま道反玉ちがえしのたま蛇比礼へみのひれ蜂比礼はちのひれ品品物比礼くさぐさのもののひれ*4

ちなみにゲーム「大神おおかみ」の神器(武器)として比礼以外の7つが採用されています。
unlearn-mahikari.hateblo.jp

謡Ⅲ-Reincarnation


Kenji Kawai - M10 謡Ⅲ-Reincarnation

謡III-Reincarnation

謡III-Reincarnation

この歌はアニメ映画版のED曲です。
ブルガリアン・ヴォイスという、強烈な不協和音のコーラスを取り入れて、民謡風に仕上げています。
歌詞は古語ですが、作品のメインストーリーである「コンピュータと結婚する姉ちゃん」という内容です。
原作漫画でも、人形使いと融合することを草薙素子は「プロポーズ」と表現しています。

歌詞はリンク先にあります。*5

それでは、意訳を書いておきましょう。

拙訳

私が舞えば 美しい女が酔っていたことだ
私が舞えば 美しく輝く月が鳴り響いていたことよ

求婚するために、神が天上の世界から地上に降りて
[一夜を共にし]夜が明けると、[私も人形使いもどこにもいなくなって]鵺鳥はもの悲しく鳴く

遠い祖先みおやの神様、恵みを賜りますように
遠い祖先の神様、ご照覧くださいませ
遠い祖先の神様、(ほほえ)みを与えてくださいませ

物語と読み解く「謡ⅢReincarnation」

1~2行目。そもそも「(私)」とは誰を指すのでしょうか?

「美しい女が酔いしれる」のなら「吾」は男性と考えてしまいますよね。
アニメ映画版にはありませんが、原作漫画だと草薙少佐は高性能義体を生かして、同性相手に違法な「副業」をするという、なかなか刺激的な場面があります。

ハリウッド実写版では、女性を買ってキスするシーンにその名残があります。
美女を酔わせていたのは人形使いではなく、草薙少佐の方なのです。

二行目は、輝く月自身が「大声で騒ぐ」としていたのですが、「山とよむ(動物などの鳴き声が山に響き渡る)」という言い回しがあるので「響き渡る」にしました。

この「舞い」が草薙少佐のハッカーとしての能力の高さでしょう。
「地上にいる」美女も酔いしれ「天にある」月にまで響き渡るほど。

そして三行目で、ついに「天の」神からプロポーズされるに至ります。
流れからして月よりも上の神が天下ってくるはずです。
人形使いを太陽神アマテラスになぞらえているのかもしれません。

「よばひ」は、元々「呼び合う・呼び続ける」から「言い寄る・求婚する」という意味になりました。*6

神とは、「人形使い」を指します。

人形使いは肉体を持たない凄腕のハッカー。情報の海から自然発生したプログラムであり、誰かに作られたものではありません。
日本神話の中の神は、葦の芽のように勢いよく伸びるものだったり、目鼻を洗ったら成ったりと神は自然発生しがち。

西洋では、世界や動物は神の作りたもうたものと考えます。

日本ではあまり馴染みがないのですが、進化論を信じないという信仰があります。
神が創ったものなんだから、長い年月をかけて生物が独自に進化したというのは受け入れがたいようです。
外国でエセ科学というとこちらがメジャーなんだそうで、子供に進化論を教えない親もいます*7

「人間はいつ・何故生まれたのか?」
という問いに対して日本神話の中に答えはありません。
伊邪那岐命いざなぎのみこと伊邪那美命いざなみのみことが男女の交わりで国土を産んだ際に、一緒に生まれていたのではないかということでした。
人間の誕生よりも、毛が硬い・柔らかい動物や大小の魚の方が記録に残す優先順位が高いんですね。
伊邪那岐命が黄泉の国から帰ってきた時点で「あなたの国の民を一日千人絞め殺しましょう」「一日に千五百の産屋を建てよう」といつの間にかいます。

さて、人形使いに話を戻しましょう。

彼が追い詰められて義体の中に逃げ込むあたりが「天下りて」でしょう。
肉体を持たないネットのプログラムである人形遣いが、義体とはいえ実体を持ったからです。

天降った神が結婚と言えば、天津日高日子番能邇邇芸命あまつひこひこほのににぎのみこと木花之佐久夜毘売このはなさくやびめを外すことはできません。

ニニギノミコトはサクヤビメを見初め、その父親である山の神、大山津見神おおやまつみのかみに娘との結婚を申し込みをします*8
醜い姉・石長比売いわながひめと姉妹セットで嫁いできたのですが、とても醜いので恐れて送り返したため、天つ御子の寿命は木の花のようにもろくはかなくなります*9
醜くくて怖いとは、昔の人は遠慮がないものです。

人形使いは自分のコピーを残すことは出来ますが、そこに多様性はないので何かの理由で消滅するかもしれません。
そこで草薙素子に「融合」を持ちかけ、遺伝子の揺らぎや死を得ることが出来ました。

この草薙素子人形使いの話は、大筋では日本神話の天孫降臨からサクヤビメを娶って、寿命が短くなるところまでのお話と幾分似ています。

鵺とは、いろいろな動物を寄せ集めたような、架空の動物です。トラツグミの場合もあります。
二人は一つとなり、人形使いも、少佐と呼ばれた女も存在しません。
人とも神ともつかない、正体の分からない存在「鵺」となり、誰かを恋うようにもの悲しく鳴きます。

古語辞典で調べた限りでは、歌詞の多くは万葉集から採用したようです。
手元に資料はないのですが、作曲者の川井 憲次氏は図書館に通ってこの歌詞を書いたと記憶しています。
鵺は不吉な予兆という説明が多いのですが、ものがなしい鳴き声なので「うらく」「片恋」などの枕詞になるそうです。

トホカミエミタメ

さて、最後に「トホカミエミタメ」という言葉が出てきます。
一種の祓詞であり、簡単な神拝詞として今日まで使われています。

元々は上古の占い――鹿の骨や亀の甲羅を焼くものですね。鹿骨や甲羅につけた符帳のことだそうです。
占いとは神意を問うものですから、"「神様の御心があきらかになりますように」という意味であったのではないかと思われます。*10"

"神祇官の卜部、隠岐対馬、伊豆の卜部などが古くから*11"行っていた卜術ですが、長い年月を経て特定の意味が生じ、"中世末期には、卜部家や白川家で、「三種大祓」(三種祝詞)が形成された"*12

三種大祓は大祓詞最大の謎である「天津祝詞の太祝詞」であるとして尊重されました。
unlearn-mahikari.hateblo.jp
近世では"三社託宣とともに僧俗で深く信仰された*13"。
unlearn-mahikari.hateblo.jp

ちなみに天津祝詞の太祝詞の候補は他にもあります。
つまり、それぐらい神道においてはメジャーな言葉と言うことです。

歌詞の中では「遠神恵賜」と書いてありますが、一般的には「吐普(菩)加身依身多女」と書くことが多いようです。

「トホカミ」は「遠つ神」の意味とする者が多いが、「エミタメ」については「エ」と「ヱ」を混同して「笑み賜え」(ヱミタマヘ)、また「恵み賜え」の意とも解する者もある*14

真光からトホカミエミタメに至るまで

ちなみにこのトホカミエミタメは神社検定壱級祭祀編の範囲です。
真光信者だった頃は、オカルトに興味はあっても既存の伝統宗教に対しての知識も興味もありませんでした。神社やお寺に好んでいくことはありませんでした。
信者時代の頃から思っていましたが、信者の方って既存の神仏のことに関してはかなり無知です。
好き嫌いは別にして、伝統的な宗教を学ぶことは、カルトから覚めるきっかけになるんじゃないかと思っています。

私も無知でしたがいまや様々な解説記事を書いています。
unlearn-mahikari.hateblo.jp

神社検定は2020年は延期になってしまいましたが、真光からの洗脳を解くのに役に立つでしょう。
unlearn-mahikari.hateblo.jp

*1:神社のいろはP166

*2:神話のおへそ P62

*3:神話のおへそ『日本書紀』編P101

*4:神社のいろは続P167

*5:ちなみに「」を「われ」「くわ」を「うるわしめ」と誤ったルビが降られていることが多いです。意外と英訳版が正確だったりする。

*6:http://k-amc.kokugakuin.ac.jp/DM/detail.do?class_name=col_dsg&data_id=68974

*7:インテリジェント・デザイン - Wikipedia

*8:ニニギノミコトはサクヤビメに誰の娘なのか名を尋ねて求婚しますが、父から返事をすると答えます。

*9:神話のおへそP184-185

*10:神道での唱えことばについて | 神社本庁

*11:神社のいろは要語集祭祀編P240

*12:神社のいろは要語集祭祀編P240

*13:神社のいろは要語集祭祀編P241

*14:神社のいろは要語集祭祀編P242